醤油の知識
垣崎醤油店(島根県)

一代じゃできないからね
島根県のほぼ中央部に位置している邑南町(おおなんちょう)。広島市から車で1時間ほど北上した位置にあります。「醤油づくりは一代じゃできないからね」と話すのは社長で三代目の垣崎正紀さん。
息子の宏次(こうじ)さんの名前の由来は麹、娘の香緒里(かおり)さんは醤油の香りから名付けたそうです。そんな想いを引き継いでか、お二人が加わった蔵の中は活気と笑顔で溢れていました。


地域に好まれる味を
蔵の中には木桶が23本。このあたりの地域は甘みのある醤油が好まれるため、垣崎さんの製法は珍しいものです。木桶で1年半ほど熟成させた諸味をタンクに移しアミノ酸液とともにさらに熟成。搾った後に甘味料などで味を調える混合醸造という製法です。

醸造を残さないと、おもしろくないよね
一般的には液体の醤油を買い入れて、甘味料などで味を調える方法もあります。「どうして手間をかける混合醸造なのですか?」と尋ねると、「だって、おもしろくないでしょ」と笑いながら垣崎さんが即答してくれました。

ひたすらに働いたけど、楽しかったなぁ
垣崎さんは千葉県の醤油メーカーに修行に出て昭和55年に戻ってきたそうです。「当時はね、酵素分解ができる最先端の機械があった。あれはおもしろかったね」と。そして、ひたすらに働いたそうです。「ずっと働いていたよ。だけど、それでも楽しかったなぁ」。

夕食を食べて行きなよって
その働きぶりは戻ってきても変わらなかったようです。当時は各家庭に配達をすることで販売をしていました。醤油をつくって配達をしての繰り返し。
「お客様との関係も友達みたいだったなぁ。配達が遅い時間になると、夕食を食べて行きなよって言われてね」。娘の香緒里さんが「それで、本当に食べてくるんだよね」と、話す雰囲気から仲のよさが伝わってきます。



家族会議で反対されないこと
九州の醤油メーカーで修業をして戻ってきた宏次さんと、広告の営業マンを経て家業に戻ってきた香緒里さん。いつも家族会議をしているそうです。率直に意見を交わす中でヒートアップすることもあるそうですが、その中でもめったに反対されないことが新商品づくり。「新しいものづくりは勉強になるでしょ」と社長の垣崎さん。

試行錯誤が学びになる
そう言いながら紫蘇ジュースを持って来てくれました。「どうしたらキレイな色になるか?味わいをどうするか?作ろうとすると勉強するよね。その試行錯誤が学びになるし、なにより楽しいでしょ」と。

醸魂
蔵の中のいろいろな場所に掲げられているのが「醸魂」の文字。垣崎さんが先代に書いてもらったものだそうです。「配達先に『耕魂』と書いてあったんだけど、素敵だなと思っていて、自分たちは醸造だから醸の字で書いてもらったんだ」。心を持って醸しなさいという意味だそうです。
「昔は味噌屋も酒屋もみんな地域の中で生きていたでしょ。だから、人に嫌われないことが原理原則だよね。素直な気持ちをもって、人とのつながりを大切にする」。

求められるものづくりを
醤油の仕込みの原料も脱脂加工大豆から島根県産の丸大豆に変えたそうです。有機原料の甘酒は粒がなくてなめらかな食感。島根県ののどぐろを使ったおかず味噌やドレッシングなども個性的なものが並びます。
「お客様の求めるものをつくりたいんです」と話す宏次さん。身近にいる顧客を大切に、求められるものを試行錯誤する。親子に共通する姿勢で、話を聞いていると微笑ましい気持ちになる、そんな蔵元でした。


醤油の種類
-
素材を活かすNo.1選手
白醤油
淡口よりさらに淡い琥珀色の醤油。料理好きな方に高い人気。お吸い物や茶碗蒸しなどに。
詳細 -
美しき京料理に必須
淡口醤油
西日本でお馴染みの淡い色の醤油。素材の彩りや出汁を活かしたい料理に。塩やレモン代わりにかけても。
詳細 -
甘みをつけた地醤油
甘口醤油
九州や北陸などでは一般的な存在。海沿いの地域ほど甘みが強かったり、それぞれの土地に根ざした醤油。
詳細 -
幅広く使える万能醤油
濃口醤油
一般的な醤油で流通量の8割はこれ。新鮮なものは綺麗な赤褐色で、北海道から沖縄まで各地で生産。
詳細 -
濃厚なうま味とコク
再仕込醤油
熟成期間の長い濃厚な醤油。味と香りのバランスがよく、刺身やステーキにまずお試しいただきたい。
詳細 -
濃厚さとうま味はNo.1
溜醤油
大豆を多く、仕込水を少なくし、うま味を凝縮。ハマる方はとことん好きになっていただける醤油。
詳細
醤油のつくり方
-
1
原料処理
カチカチの材料をほくほくにしたり、溶かすことで、菌が材料を醸し、美味しさに変化しやすいようにします。
詳細 -
2
麹づくり
醤油づくりで一番重要視されている工程です。種麹を原材料に混ぜて、麹菌を繁殖させることで酵素を生み出します。
詳細 -
3
塩水
麹に塩水を加えて諸味をつくります。塩分濃度を高めることで雑菌から守り長い発酵熟成の時を迎えます。
詳細 -
4
諸味
ゆっくりと乳酸菌や酵母菌が大豆や小麦を醸します。どろどろの味噌のような状態で、半年~三年の時を過ごします。
詳細 -
5
圧搾・火入れ
諸味を布に入れて、圧力をかけて圧搾し、火入れとろ過をします。殺菌と香りを引き立てる火入れも技術が必要です。
詳細 -
6
完成
ビン詰めされてラベルを貼ってようやく完成。長いものだと原料処理から二~三年かけて醤油になります。
詳細