職人醤油の蔵元

畑醸造

富山県小矢部(おやべ)市。冬は雪が降り積もる地域に畑醸造はあります。蔵の横には珍味加工品や旬の野菜がならぶ直売所「宗珍(そうちん)」が併設。

醤油づくりも地元もふれあいを大切に

極寒の地の温度変化に対応するレンガ造りの蔵で麹蓋による麹づくりをしています。そして、蔵に併設されている店舗は地域の交流の場にもなっていて、朝から地元客でにぎわっています。

富山県に残る麹蓋(こうじぶた)による仕込み

富山県は混合醤油といって、アミノ酸液を加える甘いタイプの醤油が一般的に使われています。特に海に近い地域は甘い傾向が強いそうです。漁に出て行く男たちは、海の潮風にさらされれば甘さを欲しくなり、逆に山林での作業では大量に汗をかくと塩分が欲しくなるのでしょっぱい傾向があるそうです。

このような富山県において、畑醸造では昔ながらの醤油の仕込み方法である「麹蓋(こうじぶた)」による造りが守られています。しかも、原料は大豆が地元富山県産、小麦が北海道や青森県産などの国内産。塩も沖縄県産のシママースと、全て国産です。

四代目の畑 彰さん。「商売は変化していくもの。伝統にあぐらをかいてはいけない。」

冬は寒い。この地域。

畑醸造の位置する富山県小矢部(おやべ)市は、富山県の西部に位置し、石川県との県境にあります。高速道路を降りて車を走らせると、漆黒に光る瓦の敷き詰められた家々が目に入ってきます。

聞けば、畑醸造の住所でもある「小矢部市浅地」という地名にもあるように、土地を掘ればすぐに水が出てくる地域。粘土も豊富に採れたそうで、その粘土を使って瓦作りである窯業も盛んだったそうです。そして、ここの瓦は、厚くて黒塗りなのが特徴。どの家々には重厚感のあるピカピカの瓦が敷き詰められています。

年間2トンの大豆を仕込みます。この釜で一回200キロなので、10回も仕込みを繰り返すわけです。そのため、決して大量につくることはできません。
室(むろ)。昭和のはじめに作られたレンガ造り。麹蓋(こうじぶた)が積み重ねられています。

レンガの室

冬になると、その瓦たちの上にはずっしりと雪が降り積もります。醤油の仕込み時期でもある冬場は相当な寒さになります。麹の仕込みに3日間かかるのですが、ここでの温度管理がとても重要なのです。麹菌をはじめとする微生物にとって最適な温度と湿度を保ってあげなくてはならないからです。

「この室は昭和のはじめにつくられたものなんですが、レンガ造りなんです。レンガが呼吸をしてくれているので、朝の冷え込みや外気温が氷点下に下がっても麹への影響を少なくすることができるんです!ただ、上げすぎず、下げすぎずの微妙な管理が必要なんですよね・・・結局は、人がつきっきりで面倒をみなくてはなりません。冬場の仕込みは本当に大変なんです!」と畑さん。

これが麹蓋。淵のついたお盆のような形状です。この麹蓋で麹をつくる手法は、大変な手間がかかることから、全国的には残っている蔵はごく少数です・・・

バラバラの大きさの麹蓋

麹蓋(こうじぶた)での仕込みは手間と時間がかかる以上に、道具の管理も大変です。これらの道具を専門につくっている職人さんはすでにいないので、新調する場合には独自に作るか譲り受けるしかありません・・・

畑醸造の場合、各地で醤油や味噌づくりをやめる・・・という話をきくたびに道具を譲り受けているそうです。だから、麹蓋の大きさもバラバラ。ちょうど蔵には神奈川県の醤油屋さんから譲り受けたという大桶も並んでいました。

麹づくりは三日間。一時たりとも気を抜くことはできません。特に重要なのは温度と湿度管理。天井のこの窓を開けたり閉めたりで微調整を行います。だから、職人は付きっきりで世話をします。
諸味は三年間じっくりと熟成されます。
それぞれの諸味の前には仕込みを行った日付が貼られています。
搾り。一週間、諸味自身の重さだけでゆっくりと滴り落ちるのを待ちます。その後、少しだけ圧を加えますが、油分がでない程度にちょっとだけ・・・

自然に滴るのを待って一週間

搾りの工程にも特徴があります。熟成した諸味を袋に入れて積み重ねていくと、自分たちの重さで圧力がかかり、液体が染み出てくるのですが、一週間このままの状態で自然に滴ってくるのを待ちます。

その後、少しだけ圧を加えて搾るのですが、「このときも、ほんの少しの強さだけにするんです。丸大豆で仕込んだ醤油には大豆の油分が含まれているので、強い圧力をかけてしまうと、油臭さも一緒に搾ってしまう。だから、ちょっともったいないけど、少しだけの力で我慢するんです!」

醸造界では知らない人がないほどの有名人。小泉武夫先生も畑醸造を訪問して、「我、幻醤ヲ見タリ。」と表現。

野菜の売っている醤油蔵

早朝に畑醸造に到着すると、店先には大量の野菜の山。それを取り囲む地元に方々。「あれっ?!醤油屋さんに来たつもりだったけど、間違えたかな・・・」ただ、看板を見ると確かに「畑醸造」の文字が・・・それともうひとつ、「蔵元 宗珍(そうちん)」の文字も・・・。

創業者の名前が由来となっているこの店舗は、醤油はもちろん、新鮮野菜や各地の特産品が並んでいます。そして、そのどれもが、そこらのスーパーなどでは買えないちょっと変わったものばかり・・・

地域の交流と情報発信の場へ

地方の醤油蔵で多いのが配達。地域に根ざして各お宅まで醤油を配達に回る光景は、少なくなりつつも残っている習慣。ただ、醤油の消費量の減少に伴って、配達の回数も減れば、一回あたりの量も減少していく・・・「少ない量なのに持ってきてもらって申し訳ないねぇ・・・」という声を聞くようになったそうです。

ならば、蔵に買いに来ていただけるようにはできないだろうか?と考えはじめたのがキッカケだといいます。地元の農家の方々に野菜を提供して並べれば、当然、生産者の顔を知った上で紹介できるし、野菜の食べ方も伝えられる。すると、「うちは家族が少ないから、惣菜もほしい!」という声。すると、一人分に小分けされた惣菜も並ぶようになる。「今では、若いスタッフと地元のお年寄りとの交流の場にもなっているんだよ!」と畑社長。

昔ながらの麹葢仕込みだから幻の醤

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幻醤
昔ながらの醤油づくりを残したいと富山県産大豆・国産小麦・沖縄産塩と全てを国産原料で麹蓋での仕込み。この麹蓋を使った麹づくりを現役で行っている蔵元は数える程度です。

価格 : 600円+税
原材料 : 大豆、小麦、食塩

富山県でお馴染みなのがこの甘さ

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いなか醤油
北陸地方の醤油は甘い。海に近い地域ほど甘さが増していき漁師の料理には欠かせない存在。焼きおにぎりに試していただきたいです。そして、温泉卵を抜群に美味しくします。

価格 : 450円+税
原材料 :醤油、アミノ酸液、食塩、カラメル色素、調味料(アミノ酸等)、甘味料(ステビア、甘草)、保存料(パラオキシ安息香酸) (原材料の一部に大豆、小麦を含む)
この蔵元への直接のお問い合わせ
畑醸造
〒932-0122 富山県小矢部市浅地800番地
TEL:0766-61-2111  FAX:0766-61-4024
https://hata-jouzou.co.jp/