職人醤油の蔵元

日東醸造

愛知県碧南市(へきなんし)。小麦が主原料の白醤油を手掛けるのは日本でも数えるほど。

白醤油の専業メーカーが集まる愛知県碧南市

主原料が小麦で、熟成期間も短め。醤油の中で一番淡い色をしているのが白醤油です。全国的な流通量は1%程度で、手掛けるメーカーも数えるほどですが、料理人からは素材を活かしてくれる醤油として重宝されています。

その白醤油の発祥の地は愛知県碧南市といわれ、今でも日東醸造を含めて3つのメーカーあります。日東醸造は通常の白醤油もつくっていますが、看板商品にもなっている「しろたまり」は「醤油と名乗れない白醤油」ともいわれる珍しい存在です。

社長の蜷川洋一さん。

大豆を使っていないと醤油をよぶことができない

「一般的な白醤油は小麦を主原料に、大豆を1割程度加えています。そして、そもそもの醤油の定義の一つに『大豆を使用していること』という項目があり、大豆を使っていないと醤油をよぶことができないのです」と、話すのは社長の蜷川洋一さん。

「しろたまり」は、白醤油の製法でつくりながら、大豆を一切使っていません。原材料は「小麦、食塩、焼酎」のみ。そのため醤油とよぶことができず、「小麦醸造調味料」と記載されています。

麦の麹。

白醤油の原点を追求する

「もともとは先代の問題意識からでした。濃口醤油はうま味と香りのバランスがとてもいいですよね、万能タイプといわれる所以だと思います。一方の白醤油は色を極力付けたくないために各製造工程で無理をさせています。うま味は少なくて、塩味を感じやすい。それが白醤油の特徴ではあるのですが、『昔の白醤油は違ったような気がする』と、先代がこんな一言を発したのです。そして、白醤油の原点回帰の追求がはじまりました」。

小麦を通常の2倍にする

まず手掛けたのは、原材料の小麦の使用量の見直しです。通常の倍の小麦を使うと、しっかりした味になる。でも、白醤油の特徴である淡い琥珀色が濃くなってしまう。どうしたものかと試行錯誤を繰り返す中で、色を濃くさせてしまう一因であるたんぱく質の量を減らすために、大豆の量を削減していきました。結果的にまったく使わないまでに減らしたことで、原材料から大豆がなくなり、醤油の定義から外れてしまったというわけです。

通常の白醤油の諸味が入るタンク
圧搾
搾りかす

水を求めて足助町へ

小麦と大豆の比率がひと段落したものの、最後まで解決できない課題が水だったそうです。「いつも頭の中は水のことでいっぱいでした」と蜷川さん。人に会っても質問するのは水、水、水。すると、ある町の助役から「あるよ!」という思いがけない回答を受け、連れてこられたのは山道を越えた集落。

愛知県豊田市足助町。「あすけちょう」と読みます。日東醸造の本社工場から車で約90分。標高が720メートルあるので、気温も5~6度低い。地元の方が「愛知の北海道」と表現するくらい、夏でもエアコンいらずの山里です。この地で天然の井戸水と出会ったそうです。「最初はここで井戸水を汲んで、本社工場に持ち帰る計画でしたが、この地で醤油をつくりたくなってしまったんです」。

「ここに来るまでの山道、頂上を過ぎて少しのところに集落を一望できるポイントがあるのですが、そこからの風景にやられてしまいました。気温が低いのだって、醤油の色を濃くしない要素になる。考える程に、この地で醤油をつくりたいと思ってしまったのです!」

桶の底にたまった白醤油を生引きする様子

絶対に怪しい!からのスタート。

廃校となった小学校の建物を借りられることになったそうですが、醤油づくりをスタートするまで2年ほどを要したようです。「なかなか地元の方にご理解いただけなかったのです。車で90分も離れた会社がこの地で醤油工場をつくると聞いて、地元の方からすれば『なぜ?』となるのは当然のことだと思います。いくら説明をしても、『むしろ、絶対に怪しい!』となってしまい…。(笑)」と蜷川さんは笑いながら当時を思い返します。

結局、何度話し合いをしても進まず、マイクロバスで本社工場の見学に来ていただくことにしたそうです。すると、「本当に醤油をつくってる!(笑)」となり、そこからはとんとん拍子に話が進んだそうです。

外観は校舎。内部は桶が並ぶ「日東醸造足助仕込蔵」。
内部には木桶が並びます。
本社工場から運ばれてきた麹。
トラックを横付けして、運び入れます。
袋の中に麹が入っています。
木桶の中に入れていきます。

ご近所さんが営業マン?!

これまで何度か、足助仕込蔵の見学をさせていただいたのですが、その度に、ご近所さんが蜷川さんを見つけると話しかけにやってきます。そして軽く世間話をした後に、「今は日東醸造が誇りなんよ。もっと多くの人に知らせたい。あなたは醤油を売っているんだろ?だったら、日東醸造を世界に紹介してくれよ!」と、さながら営業マンのように日東醸造自慢をしているのです。

木桶でしろたまりをつくる

しろたまりは木桶で仕込まれています。「社会全体が効率化していくことは大切だと思っています。それは正しい道筋です。ただ、その意味では、木桶は管理するにはやっかいです。量産には向かない。でも、オリジナリティーを出すには、これほどうってつけな容器はないとも感じています。小さな蔵がおもしろい醤油をつくる。個人的にも好きなんでね」。

白醤油の場合、上に重石をのせるために諸味は見えません。そのまま3~4ヶ月発酵熟成の時間を過ごす。

先代の夢が、自分の夢になった。

「醤油屋の家系に生まれて、若いころは冴えない仕事だと思っていた時がありました。でも、父の夢だった『しろたまり』を引きついて、自分の夢にもなりました。そして、今、海を飛び越えて海外の方がとてもよい評価をしてくれるんです。海外の料理に醤油を使うと、和食の味になってしまうので敬遠していたそうですが、白醤油だと使えるというのです」。

「足助のしろたまり」として

「ものをつくることを通して、この仕込み蔵のある過疎の村をどうしていくか?」そのように考え方が変わってきているそうです。地域という単位で考えれば、耕作放棄もたくさんあるし若手も少ない。でも、そこをなんとかしようとしている人たちもいる。「醤油づくりもその一つの要素だと思えば、できることがたくさんあることに気づくんです」と、「しろたまりではなくて、『足助のしろたまり』として、世界に広げていきたいんですよね」。

昔の白醤油を追求したこだわり

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しろたまり100ml
昔の白醤油を追求した結果、仕込水を半分にして原料から大豆を抜きました。琥珀色の綺麗な色の醤油ですので素材の彩りを活かしてすっきり仕上がります。

価格 : 450円+税
原材料 : 小麦(国産)、食塩、焼酎
この蔵元への直接のお問い合わせ
日東醸造株式会社
〒447-0866 愛知県碧南市松江6丁目71番地
TEL:0566-41-0156  FAX:0566-42-7744
http://nitto-j.com/