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柴沼醤油見学 その3

ついに新しい木桶へ

ちょうどそのころ、一人の職人が蔵に入ってきました。大阪・藤井製桶所の桶師、上芝雄史さんです。

藤井製桶所は、日本で唯一、大桶の製造を行うことができる桶屋です。2012年、ヤマロク醤油の山本康夫さんが小豆島の仲間の大工さんたちとともにここへ弟子入りしたことが、「木桶職人復活プロジェクト」のはじまりでした。その藤井製桶所を率いるのが、まさにこの上柴さんなのです。

わたしもこれまで話には何度も聞いていた木桶復活の大師匠に、ようやく直接お会いできることが、この上なく嬉しく、同時に緊張もしました。

吊るしてあった底板に、上芝さんが近づきました。そして、外周を測りはじめると、今度は木桶の中へ入り、内側の円周を丁寧に確認していきます。底板が無理なく収まるよう、側板の組みが正確かどうかを見極めているのです。

その確認が終わると、吊るしていた底板を慎重に木桶の中へと落としていきます。誰かが一つ一つ指示を出すことはありません。それでも、上柴さんの動きに呼応するように、伊藤さんと大高さんが自然と自分の役割をこなし、息の合ったチームワークで作業は進んでいきました。

底板が目印の位置まで降りてくると、「あと1センチ、右、左」と、上から上芝さんの声が飛びます。桶の中にいる伊藤さんが、その指示を受けてハンマーで底板を叩き込んでいきます。上芝さんは、底板が水平になったかどうかを、目視での確認とともに叩く音でも聞き分け確かめていました。

後から伺ったところ、順番に円を描くように叩いていない理由は、「右を叩くと、左が浮いてしまうから」とのこと。だからこそ、右、左と交互に、バランスを見ながら叩いていたのです。

さらに「胴突(どうつき)」と呼ばれる大きな角材を使って、掛け声に合わせて底板をしっかり落とし込んでいきます。桶の中に1人が入り、2人が上から胴突を勢いよく落とす。けれど、蔵の天井には梁があり、場所によっては思いきり持ち上げられないところも。作業は容易ではありません。

「ここは元気よーく!」という上芝さんの声に合わせ、叩く強さや角度も丁寧に調整。真っ直ぐだけではなく、ときには斜めからも。木桶の周囲を回りながら、全体を均一に下ろしていきます。

この胴突という作業は、ドスンドスンと、お腹にまで響くような重い音があたりに鳴り響きます。ただの音ではありません。木と道具、職人の技がぶつかり合って生まれる、力強くも確かな音です。

ようやく底板が印の位置に収まり、最後の仕上げとして鉄箍をもう一度締めていきます。作業の様子を見て、「明日また胴突で仕上げをする」と上柴さん。 こうして、本日の作業はひとまず終了しました。

けれど、ふと気になったことがありました。この新しい木桶、果たして以前の木桶とまったく同じ外周になっているのだろうか? もしそうでなければ、蔵の床との間に隙間ができたり、逆に木桶が床にかぶってしまうのでは……。

伊藤さんにその疑問をぶつけてみると、こんな答えが返ってきました。

「実はね、以前の桶は楕円だったんです。だからまったく同じサイズで新しい桶を組むのは無理なんです。その分、床板を新しい木桶に合わせて張り替えていきます」

そう言って案内してくださったのは、昨年入れ替えた木桶の床板。よく見ると、一部分だけ床の色が違っていました。木桶職人の仕事は、ただ木桶をつくるだけではない。その桶がきちんと息をして、発酵を支え続けられるように、蔵の環境そのものを整えることも、また職人の仕事なのだということを、あらためて実感しました。

全身汗だくになりながらも、この日の作業をやり遂げた職人さんたち。別れ際、「ありがとうございました」と笑顔で言う表情からは、充実感と誇りが溢れていました。その姿は、まさに”職人”そのものでした。

「柴沼醤油見学 その4」では、蔵見学の様子をお届けします!
ぜひご覧ください!

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