醤油の知識

ホーム 〉醤油の知識 〉 山川醸造見学 その3
ランキング

山川醸造見学 その3

桶の上から見える景色

仕込みをしてまだ1ヶ月ほどだというのに、液体はもう醤油色に。とはいえ、まだ水分が多く、さらさらとした質感です。熟成が進むにつれて、このしゃばしゃば感も、やがてとろみに変わっていくのだとか。

そんな話を聞いていたところ、「よかったら木桶の上にもどうぞ」と、案内してくださった華奈子さん。ワクワクしながら梯子を登ったものの、実は私、その先で固まってしまいました。高いところは平気なはずだったんです。でも、そこにあったのは、大きな木桶の上に一本だけ渡された足場板。柵も手すりもなし。木桶の中が真下に見えるその状況に、どうしても足がすくんでしまい、結局、私は梯子の上からの見学にとどまりました。

一方、華奈子さんはというと、すっとその細い板の上に立ち、何にもつかまることなく汲みかけ作業を軽々と。かっこいい!!

「いつも撮影されている動画って、どうやって撮ってるんですか?」と聞いてみると、「片手で汲みかけしながら、片手でスマホ持って撮ってますよ」と、さらり。

さすが蔵人! 慣れているとはいえ、そのバランス感覚と胆力には脱帽です。

11番の木桶は2024年4月の仕込みで、ちょうど1年が経過しています。

先ほどの「仕込み1ヶ月」のものと比べて、液体の色がぐっと濃くなっているのがわかりますでしょうか?煙突から柄杓で汲みかけた液体は、かなり黒く、もう立派な溜醤油の色味に近づいています。そして、液面も低くなっていました。「柄杓で指しているこの黒くなった部分。ここがもともとの水位だったんですよ」と教えてくださったのですが、そこから今の液面までは、何センチも差があります。仕込みから1年が経ち、蒸発によって、こうして液面は少しずつ下がっていくのだそうです。

汲みかけの作業は定期的に行われますが、水面のすぐ下には、一段分の石が均一にしっかりと敷き詰められています。この石は、平たくて重みのある石が適しているそうです。 その下に眠っている味噌玉たちはなんと、2年間、一度も動くことなく、じっくりとこの桶の中で熟成されていくのです。

味噌掘りのときに実際に手に取ってみると、親指サイズのまま、原型をとどめていることもあるのだとか。ただ、静かに、ひたすら静かに、旨みを深めていく。木桶の中では、そんな時の流れが、今日も確かに進んでいるのだと感じさせられました。

続いて見せていただいたのは、まさに今、「味噌掘り」の真っ最中という木桶。

生引きを1年以上行ったあとの諸味は、水分が抜けてカッチカチ。スコップが刺さるくらいに固まっているんです。この諸味を、桶の中から掘り出していくのが「味噌掘り」という作業。

スコップで諸味を掘り起こし、外に設置されたこの木枠の中に放り投げるそうです。最初のうちは、桶の中にまだたくさんの諸味が詰まっているので、比較的高低差がなく投げ込めるのですが、作業を進めていくと高低差が増していきます。今日見せていただいた写真のような状態になると、なんとスコップを肩の高さまで持ち上げて、そこから全身の力を使って放り投げるのだとか。

聞いているだけで、こちらの肩が痛くなってきそうな重労働です。これを毎日こなしている蔵の方々には、頭が下がります。

溜醤油って、ただ寝かせてできるものじゃないんですね。汲みかけ、生引き、味噌掘り…どれもが手間と力のいる作業。しかも、長い時間をかけて、慎重に進められている。本当に「特別な工程でつくられる醤油」だと、改めて実感しました。1滴たりとも無駄にはできません。

ちなみに外から見ると、木桶の上から下へと諸味を落とすための構造になっていて、その下には受け用の容器が設置してあります。

梯子を上って木桶の上から周囲を見渡していると、ふと、煙突がついていない木桶が目に入りました。気になって尋ねてみると「こちらは、五分仕込みの溜醤油なんです」と教えていただきました。

五分仕込みとは、塩水の量を控えめにして仕込む方法。そしてこの仕込みでは、汲みかけなどの作業は一切行わず、仕込んだらそのまま2年間、ひたすら静かに熟成を待つのだそうです。動かさず、混ぜず、触れず。まるで時間にすべてを委ねるかのような仕込み方です。

一方、私たちが先ほど見学していたのは「十水仕込み」と呼ばれる方法。こちらは、五分仕込みよりも塩水の量がやや多めで、その分、途中で汲みかけなどの手を加えながら熟成を進めていきます。とはいえ、十水でも塩水の量は全体の10割(つまり原材料の重さに対して10割分の水)。一般的な濃口醤油が13〜15割の仕込み水でつくられていることを考えると、十水でも十分すぎるほど濃厚な仕込みであることが分かります。

こうして、同じ溜醤油といっても、仕込み方や桶の構造が違えば、蔵の風景もがらりと変わる。その奥深さに、またひとつ、感動が増しました。

「山川醸造見学 その4」では、味噌切りや圧搾の現場を紹介しています!
ぜひご覧ください!

醤油の知識ランキング

職人醤油ストア