醤油の知識
山川醸造見学 その2
いよいよ蔵の中へ


説明ボードでの解説を終えて、いよいよ蔵の中へ。ビニールのカーテンをくぐると、先ほど説明を受けた煙突や重しの石の実物が早速目の前に。思わず「おおっ!!」と声が出てしまいました。まさかこんなにすぐに本物が見られるなんて。模型でイメージしたものが、今度は実物大で迫ってくる感覚。理解がぐぐっと深まる瞬間です。
それにしても、この煙突のサイズ感。こんなに大きな煙突が入る木桶って、どれだけ大きいんだろう?そう思うと、次の光景が楽しみでたまりません。

入口をくぐると、左右にずらりと並ぶ大きな木桶たち。その中でもひときわ目を引いたのが、5番の桶。なんと60石もあるそうです。今まで見学した蔵の木桶はだいたい20〜30石程度だったので、その倍以上の迫力。思わず立ち止まって見上げてしまいました。
実は、30石の木桶ですら、これまで見たものよりも大きく感じたんです。なんでだろう?と不思議に思って尋ねてみると、こんな答えが返ってきました。
「溜醤油は、仕込みの途中で攪拌をせず、汲みかけや味噌掘りという作業をしなければならないんです。だから、通常の醤油の木桶よりも縦が低くて、幅が広く作られているんですよ」
なるほど!この後に実際に味噌掘りの説明を詳しく見せてもらって、ますます納得。あの作業、確かに普通の高さや幅の桶じゃできません。溜醤油って、使う原材料だけじゃなくて、仕込む木桶まで特別なんですね。
さらに面白いのが、桶の下側面に「蛇口」が付いていること。まずはこの口から、底に溜まった液体を抜き取る「生引き」を行い、その後に味噌掘りをして、さらに搾っていく。そんな工程になっているんです。木桶は、その蛇口に向かって緩やかな傾斜をつけて設置されています。

そして、すぐ横には、なんと実際に使われていた木桶をくり抜いて、中の構造が一目でわかるようにした実寸大の展示がありました。桶の中は、こんなふうになっていたんですね。入口で見かけた煙突や、木のすのこも、この中にしっかりと組み込まれています。なるほど、こうやって使われているのかと、思わずじっと見入ってしまいました。すのこの上には、ムシロが敷かれていて、「これは何のために?」と伺ってみると、「生引きのときに、すのこが目詰まりしないように、ムシロを敷いているんです」とのこと。細やかな工夫に驚かされます。
さらに、木桶の側板は、一般的な桶よりも1cmも厚く作られているそう。というのも、溜醤油の仕込みは独特で、まず木桶の中に味噌玉を入れ、その上に布を敷いて、石を一段積み重ねてから塩水を注ぐのだとか。この「石をのせる」という工程がポイントで、桶の中にはかなりの圧力がかかるため、それに耐えうるだけの強度が求められる。だから木桶自体も特別仕様なんです。
素材も、工程も、そして道具も、すべてが「溜醤油のため」に最適化されている。見れば見るほど、奥が深い世界です。

山川醸造では、2019年2月に創業以来初めて新しい木桶を導入したそうです。3月には初めての仕込みが行われ、そこから2年間かけて汲みかけなどの手入れをしながらじっくり熟成。2021年3月にようやく初めての「生引き」を迎えたとのこと。
でも、そこですぐに完成するわけではありません。生引きを1年以上続け、さらに「味噌掘り」をしてから搾るという手順を経て、ようやく溜醤油として瓶詰めされるのです。つまり、新桶を導入してから実際に商品になるまでには、3年以上かかるということ。その手間と時間に、ただただ圧倒されます。

現在この新桶に仕込まれているのは、2回目の仕込みによるもの。桶のひとつひとつには、仕込み時期などを記した札がかけられています。
この2回目の仕込みは、2023年3月に行われ、今年(2025年)の4月から生引きが始まったとのこと。最初は勢いよく出るものの、蛇口を開けっ放しにはできないので、少しずつ、少しずつ。見学に伺った5月20日には、蛇口の口からぽたぽたと、まるで雫のように生引きされた醤油が落ちていました。このペースがしばらく続くそうです。

隣にある22番の木桶は100年ぐらいは使われているという木桶。今年(2025年)の4月に仕込みをしたばかりです。
そんなできたてほやほやの生引き醤油を、特別に味見させていただくことができました。ひとくち含んで、思わず「おおっ」と声が出てしまうほどの驚き。普段わたしが販売している「長良」とはまったく違う、すっきりとした味わい。
香りはふんわりやさしく、それでいて溜醤油らしいうま味はしっかり。強すぎず、でも物足りなくもない、「若い桶」と「火入れ前」ならではの、味わいはこんなにも違うんですね。

「山川醸造見学 その3」では、仕込み中の桶の上からの景色をお届けしています!
ぜひご覧ください!

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